はじめに
賃貸経営の成功に向けて、特に重要となるのが「空室対策」です。空室率が高いと家賃収入が減少し、投資費用の回収に時間がかかってしまう可能性があるため、地域や物件の特性を踏まえたうえで適切な対策を講じる必要があります。
そこで、今回はマンションの空室率に関する基礎知識や一都三県における空室率の現状を解説するとともに、空室率が上がる原因やおすすめの対策について詳しくまとめました。
所有しているマンションの空室率にお悩みの方、効果的な空室対策を知りたい方は、ぜひ参考にしてみてください。
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空室率とは、所有する物件の部屋数に対して入居者のいない部屋の割合のことです。
たとえば空室率が高くなった場合は空室が増えたことを示しており、家賃収入が減って投資によるリターンが低下することが見込まれます。一方、空室率が低い物件は稼働率が高く、収益が安定していることを意味します。
このように、空室率は物件の稼働状況や収益性を把握するうえで大変有効な判断材料です。ちなみに、賃貸経営においては入居者が入っている部屋の割合である入居率も同様の指標であり、入居率を上げる(=空室率を下げる)ことが賃貸マンションオーナーにとって大きな課題といえます。
空室率の目安
一般的に、マンションの空室率は20%程度を目安にするとよいといわれることもありますが、収益性の観点において20%の空室率は決して十分ではありません。たとえば10戸の物件の年間空室率が20%の場合は、年間を通じて2部屋が空室となっていることを示しており、満足できる収益性ではないといえます。
なお、空室率はマンションの所在エリアや物件の構造によっても変わってくることから一概に「〇%が目安」とはいえず、さまざまな要素を考慮したうえで適切な目標を設定することが大切です。
空室率を把握することの重要性
賃貸経営を成功させるためには、所有している物件の空室率をしっかりと把握し、空室率を低く抑えられるように対策する必要があります。単に入居者のいない部屋の割合に注目するのではなく、「支出に対してどのくらいの収入を得られているのか」といった収支を含めた視点で空室率と向き合うことで、空室対策の重要性がよりはっきりと見えてくるでしょう。
もし空室対策を怠ったまま物件を放置していると、空室が改善されないばかりかほかの空室を招く可能性があり、さらに空室率が高まっていくことが予想されます。そして、空室率が高くなればなるほど収益が悪化し、場合によっては赤字経営となってしまうかもしれません。
また、賃貸経営においては家賃収入をやりくりして入居者退去後の補修や建物全体の修繕などを行う必要があるため、家賃収入が減少するとそういったメンテナンスへお金を回すことができなくなってしまいます。補修や修繕を行わなければ物件の資産価値はどんどん低下していき、空室率のさらなる上昇につながるでしょう。
空室率の種類と計算方法
賃貸マンションの空室率は、「ある時点の空室率」「年間稼働による空室率」「年間賃料による空室率」のいずれかの計算方法によって算出されることが多いです。ここでは、各種類における計算方式について詳しく解説します。
ある時点の空室率
ある特定時点の空室率は、「空室の数÷全体の部屋数×100」で算出される空室率のことです。たとえば所有している10室の物件のうち2室が空室の場合、この計算式における空室率は「2÷10×100=20%」となります。
最も手軽な算出方法であることから不動産会社や管理会社等でも多く用いられていますが、「その時点の瞬間的な数値」である点に注意が必要です。空室状況は常に変動することから、特定の時点のみの空室率でその物件の全体的な空室率や収益性を判断することは難しいでしょう。
特に引越しが多く発生する3月には、一時的に空室率が上がるケースが多くみられます。そのため、特定の時点での空室率はあくまで目安として捉え、平均的な数値を知りたい場合は別の計算方法で算出するとよいでしょう。
年間稼働による空室率
年間稼働による空室率は、「(空室の数×空室だった月数)÷(部屋の総数×12か月)×100」で算出される空室率です。たとえば所有している10室のうち2室の空室が6か月間続いた場合、この計算式における空室率は「(2×6か月)÷(10×12か月)×100=10%」となります。
前述の「ある時点の空室率」は特定の時点での瞬間的な空室率であるのに対し、年間稼働による空室率は空室期間も踏まえた全体的な空室率を表しています。そのため、物件の平均的な稼働率を知りたい場合に適しており、事業計画のシミュレーションなどに多く用いられている算出方法です。
年間賃料による空室率
年間賃料による空室率は、「空室による未収入賃料÷年間総貸出賃料×100」で算出されます。満室の場合に想定される年間家賃収入をベースに未収入賃料の割合を求める計算方法で、賃貸経営における収支計画時の指標として多く用いられています。
たとえば10室のうち5室が家賃10万円、残りの5室が家賃9万円の物件で、家賃10万円の物件のうちの2室が6か月間空室だった場合、この計算式における空室率は「([10万円×2室]×6か月)÷([10万円×5室+9万円×5室]×12か月)×100=約10.5%」となります。
特に同一の建物内で家賃に違いがある場合は、空室が出た部屋の賃料によって収益性が左右されます。そのため、稼働率ではなく賃料をベースとして空室率を算出するほうが収支計画を立てやすいでしょう。
空室率の現状
出典:「
賃貸住宅市場レポート 首都圏版・関西圏・中京圏・福岡県版 2023年2月」(分析:
株式会社タス)
続いて、近年における空室率の現状に注目してみましょう。
株式会社タスによって公表された「賃貸住宅市場レポート(2023年2月版)」によると、一都三県のマンションにおける空室率は2020年頃までは下降気味でしたが、2021年に上昇しました。これは、新型コロナウイルスの流行による影響でリモートワークが普及し、首都圏から地方へ移り住む人が増えたことが大きな要因とされています。
しかし、2022年に入ると空室率は再び下降傾向となっていることから、移住者の拡大による影響は一時的なものであったことがうかがえます。今後も、大きな情勢の変化等がない限り、空室率は安定していく見込みです。
空室率が上がる5つの原因
所有物件の空室率が上がってしまった場合、まずは空室の原因を探ったうえで適切な対策を講じる必要があります。空室率が上がる理由はさまざまですが、ここでは一般的にみられる要因を一つひとつ押さえておきましょう。
1. 人口減少による需要低下
空室率アップの原因としてまず考えられるのが、人口の減少による賃貸物件の需要低下です。人口が減れば減るほど物件を探す人の数も少なくなっていくため、空室が埋まりにくくなるひとつの要因といえます。
ただし、この問題は日本全国どのエリアにおいても共通しているわけではありません。人の出入りが少ない地域においては人口減少による影響を受けやすいですが、逆に人の出入りが多い都市部では賃貸マンションのニーズが高く、それほど意識すべき問題ではないとされています。
2. 賃貸住宅が過剰に供給されている
前述のように日本国内の人口が全体として減少傾向にある一方で、賃貸用マンションやアパートの物件数は増加傾向にあります。つまり、家を借りるニーズが増えていないにもかかわらず新たに賃貸物件がどんどん建設されている状況であり、この過剰供給も空室率上昇の大きな要因といわれています。
3. 物件の間取りや設備がニーズに合っていない
物件の間取りや設備が物件を探している人のニーズに合っていないことも、空室率の上昇を引き起こす恐れがあります。たとえば近年不人気のユニットバスの間取りであったり、逆に需要が高いオートロックや宅配ボックス、インターネット回線などが整備されていなかったりすると、間取りや設備環境の悪さがネックとなって空室が埋まりにくくなる可能性があります。
4. 相場よりも家賃が高い
周辺地域の相場よりも家賃設定が高い場合も、空室率アップの大きな要因となります。特に、最新設備を導入しているなど高めの家賃に設定している明確な理由がなく、単に相場よりも家賃が高い物件は、近隣物件と比較されることなく選択肢から外されてしまう可能性があるでしょう。
5. 入居者への募集活動が不十分
入居者への募集活動は空室対策の基本であり、活動が不十分の場合はなかなか空室が埋まりません。特に賃貸物件を探す際は不動産情報サイトを利用するケースが多いため、該当物件がサイトに掲載されていなかったり、必要とされる情報が掲載されていなかったりと、適切な方法で集客がされていない場合は空室率が上昇する恐れがあります。
「管理会社に管理業務を委託しているのに空室対策をしてくれない」とお困りの方には以下の記事もおすすめです。
>>管理会社が対応してくれない時のオーナーに求められる6つの視点マンションの空室対策6つの方法
上記でご紹介した空室率上昇の原因を踏まえたうえで、マンションの空室対策としておすすめしたい方法は以下の通りです。
- ターゲットを見直す
- 不動産サイトの掲載情報を充実させる
- ニーズの高い設備を導入する
- 家賃や初期費用の値下げを検討する
- 退去者を増やさないための対策をする
- 空室対策に強みを持つ管理会社に変更する
具体的にどのような方法が有効なのか、以下で詳しく見ていきましょう。
1. ターゲットを見直す
マンションの空室率を下げるためには、まず「どのような年代・属性の人に住んでもらいたいか」といったターゲット像の見直しを図ることが大切です。ターゲットに合わせて物件の設備や条件を整備することで、興味を持って入居してもらえる可能性がぐっと高まります。
たとえば独身女性をターゲットにする場合は、オートロックやインターネット、宅配ボックスを完備することによって集客がしやすくなるでしょう。また、ワンルームの物件を「複数人の入居可」とするなど、ターゲットを広げる方法も空室対策として有効です。
2. 不動産サイトの掲載情報を充実させる
不動産サイトの掲載情報を充実させることも、マンションの空室率を改善するひとつの方法です。一般的に入居希望者が知りたいと考えられる項目についてはできるだけ細かな情報を掲載するように意識するとともに、古い情報が掲載されていないかどうかこまめにチェックするとよいでしょう。
また、写真が少なかったり、雰囲気がわかりづらかったりすると物件を探している人の興味を引きにくいため、物件の魅力が伝わる写真をできるだけ多く掲載することがポイントです。
3. ニーズの高い設備を導入する
エアコンやインターネット回線、宅配ボックスといったニーズの高い設備を導入することで、物件を探している人が掲げる条件に当てはまりやすくなります。また、建物の築年数が古いほど需要も低下する傾向があるため、空室が目立ってきたらマンションのリフォームやリノベーションを検討するのもよいでしょう。
ただし、そういった大規模な改修工事には高額な費用がかかるため、実施するべきかどうかの判断は慎重に行う必要があります。
4. 家賃や初期費用の値下げを検討する
家賃や敷金・礼金といった初期費用、更新料など、入居者の費用負担を減らすことも有効な空室対策のひとつです。
ただし、この方法はマンションの収益性を下げることから空室対策における最終手段ともいわれており、むやみに値下げを行うことは得策とはいえません。まずは別の手段で空室対策を行い、それでも改善されない場合や、明らかに費用がネックで入居者が見つからない場合に限って各種金額の見直しを図るとよいでしょう。
なお、金額を見直す際は「値下げ後も引き続き利益を得られるか」を事前にしっかりと確認し、どの程度値下げをするのか慎重に決めることが大切です。
5. 退去者を増やさないための対策をする
新しい入居者の募集活動に力を入れることも大切ですが、現在マンションに入居している住人が退去しないように手を打つことも重要です。入居者が「住みやすい」「今後も住み続けたい」と感じられる環境づくりをしっかりと行うことで、現入居者の退去リスクを軽減できます。
特に共用部がきちんと清掃されていなかったり、トラブルが頻発したりすると、退去者が増える可能性があるため注意しましょう。もし自力で物件の管理を行っていて不十分な対応になってしまっている場合は、不動産管理会社へ業務委託することによって管理状況の改善を目指せます。
6. 空室対策に強みを持つ管理会社に変更する
業務委託を行っている不動産管理会社がうまく空室対策を行っておらず、なかなか空室が改善されない場合は管理会社の変更を視野に入れることをおすすめします。管理会社によって空室への対応方法は大きく異なるため、入居者募集や賃貸仲介対応、建物管理に強みがあるところを選ぶことがポイントです。
賃貸管理会社を変更する方法については、以下の記事でも詳しく解説しています。
>>賃貸マンションの管理会社を変更する方法とトラブルを避ける注意点マンションの空室対策を十分に行うなら
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空室率は物件の稼働状況や収益性を把握するための重要な指標であり、空室率を下げ、入居率を上げることが賃貸マンション経営の成功につながります。もし空室率が高い状態が続いている場合はその原因を探り、適切な対策を講じて空室の解消を図りましょう。
ただし、一口に空室対策といっても多種多様な手法があり、行うべき対策は物件の状況によって異なります。ぜひ費用対効果の高い方法を効率的に実践するべく、まずは空室対策に強い管理会社に相談することから始めてみてはいかがでしょうか。